オプティマルヘルス

「オプティマルヘルス」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは、心身ともに生き生きとしていて、人間として最高(オプティマル)の健康状態であることを表しています。

その年齢時点で最高の健康状態でいようとすれば、当然、「若いから大丈夫」「今異常がないから大丈夫」というのでは実現不可能で、若い時、異常が無い時から、将来の自分のためにもケアをするのが当たり前だという考え方です。オプティマルライフ(最高最善の人生)を送るには、必要不可欠な考え方だと思います。

日本でも最近「健康寿命を延ばそう」ということが話題になってきています。「健康寿命を延ばす」とはすなわち、「健康上の問題で日常生活が制限されることなくおくれる期間を延ばす」ということです。このように時代は「治す・対処する」から「予防」へと変化しています。

しかしながら、オプティマルヘルスの健康観には、まだ多くの人が到達していないのが現状でしょう。

エピジェネティクス

親から引き継がれた遺伝情報は膨大な量で、一般的には受精してから3歳ごろまでに、どれをオンにするかがほぼ決まるのではないかと言われています。そして一度決まると、長い間、時には一生その状態が続くと思われてきました。

それに対し、各種生物のゲノムの解読が進んだ2000年代以降、エピジェネティクス研究が盛んになってきています。設計図の中の約2万2,000ほどの遺伝子は原則変わらないものの、どの働きをオンにし、どの働きをオフにするかは、環境や経験、また心理的な変化によっても切り替わるというものです。

例えば、親族にがんの人が多く、その遺伝子を受け継いでいるのではと心配をしている人がいます。しかしながら、同じようにがんになりやすい遺伝子をもっていたとしても、がんになるかはその人次第。生活次第でその遺伝子の働きをオンにもオフにもできるというのです。これはがんに限らず、その他の病気や考え方、性格や能力など様々なものに当てはまるのではないかと推察されます。

環境や経験が遺伝子に与える影響

NASAなどが行った最新の研究があります。調べたのは、一卵性双生児の宇宙飛行士、スコット・ケリーさんとマーク・ケリーさんのDNAスイッチです。

国際宇宙ステーションに1年近く滞在したスコットさんと、地球に残ったマークさんのDNAに起きた変化を比較することによって、宇宙で起きた変化だけを詳しく分析しました。すると、宇宙にいる間に、スコットさんの体内では9000以上のDNAスイッチが変化。実に興味深い現象が起きていました。

宇宙では強力な放射線が降り注ぐため、DNAに傷が付き、がんなどのリスクが増すことが分かっています。それにあらがうように、「DNAの損傷を修復する」スイッチがオンに。また、無重力空間では、次第に骨がもろくなっていきます。それを防ごうと、「骨を作る物質を増やす」スイッチがオンになっていたのです。

驚くべきことに、人体はこれまで一度も経験したことのない、宇宙という環境にもなんとか適応しようとします。DNAのスイッチは、そんな未知の環境にもすばやく適応し、生き抜くために備わった仕組みというわけです。

深層心理が遺伝子に与える影響

ある実験によると社会的に孤立し慢性的に強い孤独を抱えた人は、炎症にかかわる78の遺伝子が過剰発現となっており、逆に抗体の生成や抗ウィルス反応にかかわる131の遺伝子においては、発現量の低下が見られたといいます。

この結果によると、強い孤独感は、心臓病、アルツハイマー病、関節炎など、炎症を伴う病気のリスクを上昇させ、さらにウイルス性の風邪などにかかりやすくなることを示唆しています。面白いのは、「どれだけ社会から疎外されているか」という客観的な事実ではなく、「本人がどれだけ孤独を感じているか」という主観的な感情のほうが免疫細胞との関連性が強かったというのです。

また同研究チームは、幸福感が免疫細胞に及ぼす影響についても追求しています。『米国科学アカデミー紀要』に掲載された論文では、驚くべきことに幸福の種類によっても免疫細胞のエピゲノムが変化すると発表されています。

物欲を満たすことや、おいしいものを食べるという行為で得られる短期で浅い幸福では、本人が満たされた生活を送っていると感じているにもかかわらず、免疫細胞が活性化するどころか孤独感を感じているのと同じようなエピゲノムのパターンが見られたというのです。手っ取り早く得られる幸福感は前提に満たされない思いがあり、それを一時的に解消するため行為でしかなく、しばらくするとまた次の欲求(虚しさ)が湧いてくるということではないでしょうか。

逆に社会に貢献することで人生に意味を見出すような深い満足感を伴う幸福感では、炎症反応に関連する遺伝子が抑えられ、抗ウイルス反応に関連する遺伝子はより活性化されるという結果となりました。

遺伝子は受け継がれる

それだけではなく、後天的に情報を取り込むことで生じた一部のエピジェネティクスは、次世代へと遺伝することが明らかになってきました。

自分がオプティマルヘルス(いつの年齢時点でも、最高の健康状態である)という考え方のもと努力をすることで、自分はもちろん、子孫に至るまでその影響が引き継がれていくとなると、その責任は重大です。逆に若い頃から不摂生を続けていたり、満たされない生活を送っていることで、子孫に至るまで活性化された病気遺伝子が受け継がれていくことになるかもしれないのですから。

こうなると、セルフケアは老化を感じ出してからでは遅いということがおわかりでしょう。病気はある日突然発症するものではありません。日々の積み重ね、いえ、世代をこえた積み重ねなのです。

健康とは身体・心・社会性・経済どれが崩れても保つのが難しくなります。それは遺伝子レベルで変化を起こすのです。環境を整え、心身を満たされた状態に保つことが、オプティマルヘルスを生きるということなのです。

『オプティライフクラブ』では健康寿命引き上げのためにできるサポートを、これからも考えていきます。